2012年4月1日日曜日

ある植民地生活者の日記より

749912304日 地球へ単身赴任して800日目 晴れ時々曇り

今日は、9999年4月1日だそうだ。

この見慣れない数字は、今私が暮らす地球で、土着民がかつて使っていた暦(地域によってADとかセイレキとか色々な呼び方があったらしい)である。
暦に3種類もの単位を使う時点で不便極まりないし、一部の歴史学者以外からは忘れ去られていたのだが、最近、このAD暦がにわかに騒がれている。
この惑星であと275日が過ぎ去れば、AD暦で年を数えるのに使う4桁を使い切ってしまう。これは地球人が宇宙の破滅を予測していたからではないか、と主張する連中がいるのだ。

地球だけで騒がれるならまだ分かるのだが、我々の母星でも「警告!地球人は宇宙の滅亡を予言していた!」などという本がベストセラーになっているらしい。何と嘆かわしいことだろう。
一部の金持ちは惑星脱出ポッドを購入し、「滅亡」に備えているらしい。宇宙全体が滅びるのだったら、そんなものがあっても意味が無いと思うのだが…

さて。

4桁を使い切ることが、果たして暦の終わりを意味するだろうか。もし地球文明が存続していて、AD暦が今も使われていたなら、地球人は9999年12月31日の次を0年1月1日に戻すか、単純に桁を増やして10000年1月1日としたに違いない。

もう1つ説得力のある反論がある。

我々が地球へ進出したのは、AD暦で言えば6741年にあたる。
原始的な地球人が使う鉄の機械は我々のプラチナ(小惑星採掘の賜物だ)の前には歯が立たなかったし、レーザーガンに対しては「銃」と呼ばれるオモチャみたいな武器でしか対抗できなかった。さらに、たまたま我々の運び込んだ病原菌が彼らの個体数を激減させた。
結局、地球の文明は我々によってあっけなく滅んでしまったわけだ。どうして彼らがそれ以降の宇宙滅亡なぞを予測できようか。
もちろん、彼らが残した古文書にも、AD暦9999年の滅亡について語るものは無い。我々の侵略を予期した前触れも無い。もっとも、最近の発掘調査が正しいなら、随分前に我々の惑星を「発見」して、我々がいるとも知らずに能天気に喜んでいたようだが…まあ侵略した我々も野蛮すぎたが、ここ千年くらいは反省して地球人の生き残りを丁重に扱っているし、彼らの歴史をちゃんと研究しているのだから良しとしたい。

そうそう、地球の歴史と言えば、こんな話があった。地球では絶えず内乱が起きていて、滅ぼされてしまった小文化圏も少なくないのだが、その中に「マヤ」という人々がいたそうだ。ところがマヤが滅びてから500年後のAD暦2012年は、マヤの暦では桁を使い切ってしまう時期に当たったらしく、「マヤ人による地球滅亡の予言だ」と随分な騒ぎになったようだ。「予言書」と記された古文書がいくつか発掘されている。これを聞くと、当時の地球人を今の我々と重ね合わせてしまう。

ただ、彼らが本気だったのかは疑わしい。彼らには365日に1回だけ「嘘をつく日」があったというではないか。それがたまたまAD暦で毎年4月1日であり、今日のニュースで言及していたから知ったのだけど。

個人的には、当時の地球人が我々ほど馬鹿だったとは思いたくない。AD暦2012年の「予言書」とやらも、どうせ「嘘をつく日」に書かれたのだろう。



※この記事は、ありもしない宇宙人の日記を、私が和訳したものです。

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