2012年4月14日土曜日

Japanese andromeda

たまたま辞書を引いてて、こんな単語を見つけた。


Japanese という形容詞がつく英単語は、それなりに辞書に載っている。
しかしそのほぼトップに、こんな、妙にインパクトのある単語があるとは知らなかった!

2012年3月@城南宮
ちなみに和訳は「アセビ(馬酔木)」だ。植物の名前である。

正直に言うと今までアセビという名前を知らなかったのだけど、説明を読んでピンと来た。

庭園で意外とよく見かけるこいつか!→


さて、問題は「どうしてアンドロメダが出てくるんだ」ってことなのだけど、どうやら Andromeda と呼ばれる一群の植物があるらしい。
もっと正確に言うと、ツツジ科のヒメシャクナゲ属がそれだ。

ヒメシャクナゲ(ヒメシャクナゲ属ヒメシャクナゲ)は高山の湿地帯に生えている花で、日本なら尾瀬などで見られる

世界中にも仲間がいて、スウェーデンの博物学者リンネもヒメシャクナゲを目にした。
もちろん、あらゆる動植物を属と種の2つの名で分類することを提案した、あのリンネだ。
彼がヒメシャクナゲに与えた名が、Andromeda polifolia だったのである。

その経緯が以下のサイトで詳しく述べられていた。
Art + Botany: The Illustrated Journals of Carl Linnaeus

同サイトで引用されている、リンネのコメント。

彼女[ヒメシャクナゲ]は花開く前に血のように赤いが、咲くや否や花びらが肌色になることに、気がついた。彼女の魅力に敵うような少女の肖像画を描いたり、あるいは少女のほおをこれだけ美しく粧うことのできる芸術家はいまい。[しかも]その美しさに手を貸す化粧は存在しないのだ。彼女を見ていて、私は詩人達が叙述するアンドロメダを思い浮かべた。そして彼女[アンドロメダ]のことを考えるにつれ、この植物とよく似ているように思われた。

彼女の美しさが保たれるのは、彼女が処女である限りにおいてである(女性についてもしばしば言えることだ)。すなわち、彼女が受胎するまでだ。花嫁となれば、そう先のことではない。遠く水の中に固定され、まるで海の真っ直中の岩に固く縛られたかの如く、いつも沼地の茂みの中にいる。水は彼女の膝の上に、根より高くにやってくる。そして、いつも毒々しいドラゴンや獣、すなわち春の繁殖期に彼女へ水を浴びせる悪いガマやカエルがいる。彼女は立ち尽くし、悲しみで頭を垂れる。するとバラ色をした彼女の小さな花房はうなだれて、どんどん色がさめていく…

詩人だねえ、リンネさん。

でも、アセビはヒメシャクナゲと同じツツジ科ではあるけど、ヒメシャクナゲ属(Andromeda)ではなくアセビ属に属する。
つまり正式な学名はPieris japonica(japonica亜種)だ。

なんで Japanese andromeda という異名がついたんだろう。
少なくとも、リンネのコメントはアセビには全く当てはまらない。

ご存じの方がいたら是非教えて下さい。

2012年4月7日土曜日

引っ越し、完了

昨日、研究室の机が決まったので、今日、早速荷物を運び込んだ。

デスクトップPC一式や多数の辞書類を運搬するため、研究室から台車を拝借。
家から研究室まで3km強。どうにかなるだろうと思ったら…予想外に困難だった。

まず、横断歩道から歩道へ乗り上げるときの段差がきつい。また、ブロックを敷き詰めた歩道はガタガタするので台車上の荷物がどんどんずれる。
そもそも歩道が狭すぎて通れないところもあり、車道を通らざるを得ない場面も多数。その場合は側溝にはまると大惨事が待っているため、車にびくびくしながら真ん中に近い所を通る。

また、これまで意識もしなかった傾斜の数々が、私を苦しめた。一見何の変哲もない、数百mの歩道が、微妙に傾いていたため、常に力を加えて重心をずらしながら引きずった。相当な体力を消耗。
目に見えて傾いている道(非常に狭い一本道で迂回不可能)が先に現れたときは絶望するしかなく、その大変な予想をさらに上回る大惨事が待っていた。台車が転覆しかけて本と小棚が落ち、見事に傷が付いてしまったのだ。

ともあれ、何とか無事に研究室に着いたので良しとしたい。
また、車いすで移動される方の苦労を僅かばかりながら体感する機会にもなったと思う。あれはバリアフリーからほど遠い道だ。


大荷物がどいたことで、私の寝室が一気に広くなった。今日をもってようやく、2月29日から延々と続けていた引っ越しが終わったと言える。

2012年4月1日日曜日

ある植民地生活者の日記より

749912304日 地球へ単身赴任して800日目 晴れ時々曇り

今日は、9999年4月1日だそうだ。

この見慣れない数字は、今私が暮らす地球で、土着民がかつて使っていた暦(地域によってADとかセイレキとか色々な呼び方があったらしい)である。
暦に3種類もの単位を使う時点で不便極まりないし、一部の歴史学者以外からは忘れ去られていたのだが、最近、このAD暦がにわかに騒がれている。
この惑星であと275日が過ぎ去れば、AD暦で年を数えるのに使う4桁を使い切ってしまう。これは地球人が宇宙の破滅を予測していたからではないか、と主張する連中がいるのだ。

地球だけで騒がれるならまだ分かるのだが、我々の母星でも「警告!地球人は宇宙の滅亡を予言していた!」などという本がベストセラーになっているらしい。何と嘆かわしいことだろう。
一部の金持ちは惑星脱出ポッドを購入し、「滅亡」に備えているらしい。宇宙全体が滅びるのだったら、そんなものがあっても意味が無いと思うのだが…

さて。

4桁を使い切ることが、果たして暦の終わりを意味するだろうか。もし地球文明が存続していて、AD暦が今も使われていたなら、地球人は9999年12月31日の次を0年1月1日に戻すか、単純に桁を増やして10000年1月1日としたに違いない。

もう1つ説得力のある反論がある。

我々が地球へ進出したのは、AD暦で言えば6741年にあたる。
原始的な地球人が使う鉄の機械は我々のプラチナ(小惑星採掘の賜物だ)の前には歯が立たなかったし、レーザーガンに対しては「銃」と呼ばれるオモチャみたいな武器でしか対抗できなかった。さらに、たまたま我々の運び込んだ病原菌が彼らの個体数を激減させた。
結局、地球の文明は我々によってあっけなく滅んでしまったわけだ。どうして彼らがそれ以降の宇宙滅亡なぞを予測できようか。
もちろん、彼らが残した古文書にも、AD暦9999年の滅亡について語るものは無い。我々の侵略を予期した前触れも無い。もっとも、最近の発掘調査が正しいなら、随分前に我々の惑星を「発見」して、我々がいるとも知らずに能天気に喜んでいたようだが…まあ侵略した我々も野蛮すぎたが、ここ千年くらいは反省して地球人の生き残りを丁重に扱っているし、彼らの歴史をちゃんと研究しているのだから良しとしたい。

そうそう、地球の歴史と言えば、こんな話があった。地球では絶えず内乱が起きていて、滅ぼされてしまった小文化圏も少なくないのだが、その中に「マヤ」という人々がいたそうだ。ところがマヤが滅びてから500年後のAD暦2012年は、マヤの暦では桁を使い切ってしまう時期に当たったらしく、「マヤ人による地球滅亡の予言だ」と随分な騒ぎになったようだ。「予言書」と記された古文書がいくつか発掘されている。これを聞くと、当時の地球人を今の我々と重ね合わせてしまう。

ただ、彼らが本気だったのかは疑わしい。彼らには365日に1回だけ「嘘をつく日」があったというではないか。それがたまたまAD暦で毎年4月1日であり、今日のニュースで言及していたから知ったのだけど。

個人的には、当時の地球人が我々ほど馬鹿だったとは思いたくない。AD暦2012年の「予言書」とやらも、どうせ「嘘をつく日」に書かれたのだろう。



※この記事は、ありもしない宇宙人の日記を、私が和訳したものです。

2012年3月27日火曜日

Tweetの反応が遅いですか?ご発言のRTを高速化

最近よく見かけるこいつ→
に対する文句である。

普段はブラウザとしてAdblock搭載Firefoxを使っているので、この手の広告とはほぼ無縁である。しかし、いつもRSSを読むのに使っているReeder(for Mac)には広告カット機能がないので避けられない(Reederには切実にAdblockの類を実装して欲しい)。

ちなみにこの広告は英語のサイトを見ていてもわざわざ日本語で「Macの動作が遅いですか?」と聞いてきた。まったくいやらしいことだ、と言おうと思って、今、実際の例をスクリーンショットに撮ろうとしたら、いつの間にかちゃんと英語で"Slow Mac?"と聞く仕様になっていた。
よろしい…って違う、そういう問題じゃ無い!

まあでも、そこまで本気で問題視していたわけでもないし、「動作が遅いですかと聞いてる張本人が原因だなんて、格好のネタだな」という程度の感覚でツイートしたに過ぎない。

私がつぶやいた直後に1度リツイートされただけで、このつぶやきは忘れ去られるかに見えた。

しかし、二日後、何とセキュリティの大家である高木浩光氏が私のつぶやきをリツイートしたことで事態は一変。いきなりFav(お気に入り)とRT(リツイート)の嵐である(私はFavやRTがある度に夜フクロウでデスクトップ通知するように設定しているので、反応が相次ぐとすぐに分かる)。

なお同氏によれば、この広告は実際にマシンへ意図的に負荷をかけている節があるらしい。まったくいやらしいことだ。

それにしても2日間完全に放置された発言が、全く違うゾーンにいる方々の目に触れた途端にここまで爆発的に広まる(60Fav以上、170RT以上らしい…)だなんて、Twitterはつくづく面白い世界だねえ。

2012年3月24日土曜日

マスター!

ついに私も修士号というものを手に入れてしまいました。

5年以上前に完全に諦めていたつもりのものを、(2つの意味で)違う場所ではありますが取得したというのは、なかなか感慨深いものがあります。

それにしても「修士(〜)の学位を取得」という響きはいいですね。
何だかコレクションの一部みたいです。

「修士(物理学)」や「修士(経済学)」に比べると「修士(言語学)」はマイナーな感じですね。
ナイトや黒魔導師と比べたときの風水師みたいに。

マイナーなものも含めて全部そろえたら最強ですね。
なんたって、マスターだし。
全部マスターしたら「すっぴんマスター」って奴ですね。

…オールマスターしてたら何のジョブにもつけないという意味で。

2012年3月23日金曜日

天文学史トークの試み

Twitterでも何度か告知しておりましたとおり、天文学史について話すイベントをさせていただきました。

【天文イベント】 インドとイスラムから見た天文学の歴史(3/21開催) | 学術コミュニケーション支援機構

単なる「天文学」のトークイベントはそれなりの頻度で開催されるようになっていますが、その天文学の歴史、それも近代以前に焦点を当てたものというのはほとんど無いだろうと思います。前例がないというのは、やはりそれだけ難しいですね。

同種のトークは、今のところ3,4回やってますが(もっとやりたいので私を招いて下さる方大歓迎です)、たいてい「どういうところに興味を持って下さるのかな」という調査で終わってしまいがちです。
過去には「難しい」「必要な前提知識が多すぎる」という感想をいただいているので、今回は「そもそも天文学の歴史ってよく分からない」という方を想定しました。
まず、歴史を体系的に解説するのは放棄(確実に時間がなくなるため)。その代わり
  1. 「天文学史を研究するのって、こういうことなんですよ」と雰囲気をつかんでいただく
  2. 歴史の中でインドとイスラム文化圏がどういう役割を果たしたのか、いくつかのエピソードで紹介
という2点を意識して準備しました。

私が喋りっぱなしなのは最初の30分だけで、1時間半はお客さんとの対話形式の予定だったので、流れはお客さんからの質問に委ねようと思ってました。もう少し経験を積んでれば、客層をざっと見ただけで質問の内容を予想できて、自分である程度コントロールできるのでしょうけど…

結果としては、占星術や宇宙観と天文学の関係についての質問が多く、科学としての天文学がインドとイスラムでどう発展したかを体系的に知りたかった方には不満の残る内容だったようです。

今後はもう少し、宣伝の段階で「こういう範囲でこういう方向性のトークをします」と絞ったほうがいいでしょうかねえ。あと、自己紹介が無駄に長い気もするので切り詰めて、研究分野を短くかつ体系的に説明できるよう工夫する、と。

ごちゃごちゃ反省点などを書き連ねましたが、個人的に、一番の反省点はワインサロン星のソムリエがトークするという美味しい状況なのにまったく盛り上がりにつながらなかったことです…

「実際のところ何を話したんだ」という声もあろうかと思いますが、登場したエピソードなどは今後断片的にここで取り上げるつもりです。

2012年3月17日土曜日

音声認識88番勝負!

私の所にも新しいiPadがきました。

Retinaディスプレイにも感激ですが、実は結構気になっていたのが、音声認識によるテキスト入力。
iPadにはSiriがありませんが、同等の認識力を持った音声入力システムがあるということで、早速試してみました。

やることは簡単。 88星座を五十音順で全部読み上げるだけ。
早速ご覧ください。

アンドロメダが、いっかくじゅう座、射手座、いるから、インディアン座、魚座、ウサギ、うしかい座、うみへび座、エリダヌス座、おうし座、おおいぬ座、狼だ、大熊座、乙女座、おひつじ座、オリオン座、がか座、カシオペア座、かじき座.蟹座、かみのけ座、カメレオン座、からす座、かんむり座、きょしちょう座、ぎょしゃ座、きりん座、くじゃく座、くじら座、ケフェウス座、ケンタウルスは、けんびきょう座、こいぬ座、こぐま座、こぎつね座、こぐま座、こじし座、コップ座、琴座、コンパス座、災難だ、蠍座、三角座、獅子座、定規座、滝沢、ちょうこくぐ坐、ちょうこくしつ坐、つる座、ケーブル三田、天秤座、とかですが、時計皿、トビウオぞ、ともさ、はねえぞ、はくちょう座、はちぶんぎ座、はと座、風調査、双子座、ペガスス座、 elisa 、へびつかい座、ヘルクレス座、ペルセウス座、保坂展望遠鏡さん、講座、ポンプ座、水瓶座、水へび座、みなみじゅうじ座、南のござ、南のかんむり座、南の三角座、いやさ、山羊座、山猫さん、らしんばん座、流産、竜骨座、妙見山、レチクル座、どうぞ、六分儀さん、わし座。

やり直しなしで一気に読んでこの結果です。明らかに自分の読み方が悪いなぁというところがありましたし、これだけできれば上出来だと思います。

2012年3月13日火曜日

金星と木星のハイタッチ

今年に入り、夕方の空で「宵の明星」金星が存在感を増している。
 一方、昨年秋に観望シーズンを迎えて一晩中見えていた「夜半の明星」木星は夕方の空に移り、日々沈む時刻が早くなっている。
その両者が今日、ついにすれ違った!

以下は私のツイートと写真。全て iPhone4 での撮影である。


基本的にiPhoneは天体写真に向かないと思うが、それでも「見られる」写真にはなったと思う。それだけ金星と木星の輝きがすばらしいということだろう。

画像が自動展開していないのは Camera+ というアプリを使って撮影した写真だ。Camera+ は非常に有効性が高いフィルターをいくつも備えた撮影&画像処理アプリで、今日は何回も撮影に使ったのだが、いかんせんフィルターが納得のいく効果を生み出してくれず、ほとんどをボツにせざるを得なかった。まだ私には使いこなせてないような気がする。

残りはデフォルトのカメラアプリだ。HDR(ハイダイナミックレンジ)機能を使ったので、地上風景も夕焼けもそれなりに見えている、はず。iPhone 4では手ぶれを自動的に軽減する機能が一切無いのが厳しいところ。

金星と木星、両者の最接近は明日14日なので、引き続き注目しよう!

ツイート埋め込み機能の罠

本ブログで自分のツイートを引用しようとして、トラブルにはまってしまった。

Twitterには、任意のツイートをブログなどに埋め込むための出力方法が用意されている。

Web版Twitterから、ツイートをサイトやブログに貼り付ける方法。 | 和洋風◎

この機能、本来ならば
と出力されるはずなのだが、私が試すとなぜか
のように文字しか表示されなかった。

散々試行錯誤して調べた結果、以下のページを読んで問題が解決した。

Cannot embed tweet in a normal blog post - Blogger Help

ツイートから最初にコピーされるタグは、こんな感じだ。

<blockquote class="twitter-tweet" lang="ja"><p>割と綺麗に並んでいる。よーく見ると、右の金星がわずかに木星を逆転してるかも。 <a href="http://t.co/s7LNIZIp" title="http://twitter.com/kippis_sg/status/179499587059462144/photo/1">twitter.com/kippis_sg/stat…</a></p>&mdash; 廣瀬 匠(Sho Hirose)さん (@kippis_sg) <a href="https://twitter.com/kippis_sg/status/179499587059462144" data-datetime="2012-03-13T09:30:11+00:00">3月 13, 2012</a></blockquote>
<script src="//platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>

これを、Bloggerの編集画面でHTMLとして貼り付ける。ところが、この後すぐに公開せずに他の画面(プレビューなど)に遷移すると、

<blockquote class="twitter-tweet" lang="ja"><p>割と綺麗に並んでいる。よーく見ると、右の金星がわずかに木星を逆転してるかも。 <a href="http://t.co/s7LNIZIp" title="http://twitter.com/kippis_sg/status/179499587059462144/photo/1">twitter.com/kippis_sg/stat…</a></p>&mdash; 廣瀬 匠(Sho Hirose)さん (@kippis_sg) <a href="https://twitter.com/kippis_sg/status/179499587059462144" data-datetime="2012-03-13T09:30:11+00:00">3月 13, 2012</a></blockquote>
<script src="//platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>

この<p>タグが勝手に外されてしまうらしい!
このおかげでスクリプトがうまく働かず、表示がおかしくなっていたらしい。

この問題のために2時間も無駄にしてしまった。悔しいので記事にした。

2012年3月11日日曜日

iOSの星図アプリで土星の環を再現

先日、iPad の星図アプリをいくつか紹介したばかりだが、その後これらを使って調べ物をしていたときに気づいたことがある。
それは土星の環(リング)の描写だ。以下では iPad での再現画面を掲載するが、各アプリには iPad 版と iPhone 版があり、いずれも同じ挙動であった。

土星の環は、約30年周期で傾きが変化する。2009年には地球に対してほぼ真横を向いていたが、現在は幾分傾いている。このことを念頭に置いて比較画像をご覧いただきたい。

参考:土星の環の見え方(ぐんま天文台)

Starmap:2012年3月12日の土星
まずは Starmap。機能の豊富さに定評のあるアプリだが、環の傾きが再現されていない。ずっと真横を向いている。
せっかく衛星の位置を完璧にシミュレーションしてくれているのに、これはもったいない。
Star Walk:2009年9月4日の土星
続いて Star Walk を試す。さすが、土星の描写は美しい。…が、この星図は2009年9月4日、地球から見て土星が真横を向いた日の再現であり、環は消えるように細くなければいけない。
結局、Star Walk も1つの土星画像を星図に貼り付けているだけらしい。
Pocket Universe:土星的な何か
次に Pocket Universe。…これは最初に土星へズームインした時点で結果が読めたが、一応律儀に2009年9月4日に設定してあげた。
いやあ、このテクスチャで傾きだけは再現していたら驚くよ。…もうちょっと頑張れ。

iステラ:2012年3月11日の土星
最後はiステラ。
2012年3月11日の土星はこのとおり。環が北側の面を見せていることに注目。これが正しい姿である。Star Walk と Pocket Universe は逆になっていた。
iステラ:2009年9月4日の土星
2009年9月4日、環はちゃんと消えている!
ちなみに土星に限らず、全ての惑星は自転速度や地球から見た傾きを考慮した表示がなされている。
そんなわけで、土星の環の見え方を再現してくれるアプリは、私の持っている範囲で iステラのみ。
衛星の位置も確認したいことがあるので、観望会では今までどおり Starmap との併用になりそうだ。しかしその Starmap が環を再現していないことに気づいたのは少しショック。

※なお、私自身 iステラとはそれなりに縁がある立場なのだけど、本記事は気づいたことをありのままに書いただけで、他意は無い。あくまで一つの検証記事として参考にしていただければと思う。

2012年3月8日木曜日

タブレット時代の天体観望会 〜iPadを使った星空案内を考える〜

はじめに

Appleが新しい iPad を発表した。

まだ iPad をお持ちでない方は、これを機に購入を検討されているかもしれない。
もうお持ちの方は、ニューモデルに移るか否か悩んでいるところだろうか。

私は初代 iPad を使い続けているが、今回の新機種に乗り換えるつもりだ。
iPad は私が大学院生として論文を読む手段として役立っている一方、観望会等で来場者に案内や解説をするときの補助手段としても活躍している。新しい iPad の高解像度化と動作高速化は、仕事の質をさらに高めてくれるに違いない。

国内におけるiPadの有料アプリ累計販売数(2012年2月現在)で星図表示アプリ Star Walk for iPad が13位にランクインするなど、iPad が天体観測のお供になると考えるユーザーはそれなりに存在する。しかし、自分用ではなく、他人に星空を案内するためのツールとして iPad を使おうという試みはまだ少ないのではないだろうか。

私は、iPad が星空案内で果たせる役割は非常に大きいと確信している。そこで、実際の現場でどうやって iPad を使っているか、このエントリーでご紹介したい。
  • 星図表示アプリは全ての基本(iステラ、Star Walk)
    • 星を見つける
    • iPad自体が話題になる
    • 明日以降の星空を見せる
    • 曇っても、屋内でも…
  • 情報系アプリの使いどころ(Starmap、Moon Globe、太陽系、SpaceMap、NASA App)
    • 望遠鏡をのぞいた方への補助説明
    • じっくり話し込むときに
  • ユニバースをユニバーサルに(手書き文字アプリ、Pocket Universe)
    • 聴覚障がい者への応対
    • 非日本語話者への応対
  • まとめ

星図表示アプリは全ての基本

iPad の天文系アプリと言えば、 内蔵センサーを活用して向けた方向の星空を表示できる星図アプリの人気が圧倒的に高い。星空を解説するときも、一番お世話になるだろう。

そんな星図アプリだが、解説用のものとしては以下の2つしか選択肢がないと思う。これ以外のアプリは日本語対応していないか、情報の誤りを含むような粗悪品しかない。

iステラ HD App
カテゴリ: 教育
価格: ¥800

私が星空解説するときはiステラを使うことが圧倒的に多い。自分だけで使うならともかく、他の方に見せるならば最低限抑えておかねばならないのが日本語だが、日本製だからあらゆる天体名が確実に日本語で表示され、星座のつなぎ方も日本流。それだけで選ぶ理由になる。起動が比較的速く、すぐに現在の星空を表示してくれるのも嬉しい。ただしインターフェースはあまり直感的ではないので慣れが必要。また、星図上の点をタップしてしまうと大きな情報ウィンドウが画面を占拠してしまうため、気をつけていないと誤作動させてしまい見ている方を混乱させるだろう。

Star Walk for iPad - 5つ星の天体観測ガイド App
カテゴリ: 教育
価格: ¥450

日本をはじめ世界中で圧倒的な人気を誇る星図アプリ。既に持ってる方も多いと思うので挙げておくが、解説用のアプリとしてはあまりオススメできない。設定項目が少なすぎて、一度に1つの星座絵・星座線しか表示できなかったり、恒星名が選択するまで表示できなかったりするなどの点が不都合。さらに、星像や天の川は美しく見せようとしているのだろうけど個人的には「やりすぎ」だと感じる。常にあちこちで星が急増光するなどといったエフェクトも邪魔だ。一方で、検索や設定の操作がしやすいのは評価できる。また、直近の主な天文現象をワンタップで選択できるのは使いようによっては便利。

ケース1:星を見つける

昨今、天体観望会は人が集まりやすい街中で行われることが多い。すると、夜空が明るくて星が見にくくなり、誰でも知ってるような星座や星の配列でさえもたどりにくくなる。
典型的なのが北斗七星だ。ひしゃくの形に並んだ7つの星のうち、6つは2等星だが、1つだけ3等星がある。この3等星が、実によく消える。空の条件が悪いと、一部の2等星も消えて北斗四星や北斗五星になることも(もはや斗《ひしゃく》じゃない)。

実際のところ、見えるか見えないかには個人差がある。それは視力だけでなく、知識と慣れに左右されるところが大きい。つまり、「ここに星がありますよ」と正確に指し示すことができれば、見つけてもらえるかもしれないのだ。場合によっては心眼(現実の目には星の光が映っていないが、見えた気がする状態)かもしれないが、それによって星の並びや星座のイメージを現実の空に重ねることができるのであれば、意味はある。

さて、この「ここに星がありますよ」という指示をアナログ的に行うのは、実に厄介だ。
来場者と並んで、2人で夜空を指差しながら
「この方向です」
「ん、あの明るい星の左?」
「いや、もう少し右、ちょっと上です」
「…んー、ああ、あれかな?」
で、来場者が指さす方向をよーく見ると別の星だった、というのはよくある話。

そんなときに星図アプリがどれだけ役に立つかは言うまでもあるまい。かざした方向に画面内の星図が連動するようにしておけば、来場者にiPadを渡して交互に見比べていただくことでほとんどの方は目的の星を見つけることができる。

ここでいくつか注意点がある。

まず、大半の用途に言える話だが、iPadの照度は最低レベルに落としておくこと、また自分や来場者が誤動作を起こさないように配慮すること。間違えて真っ白に近い画面を来場者に見せてしまっては、文字通り目も当てられない。

星図に表示される星の数を制限する機能があれば、オンにしておこう。たとえば3等星位未満は表示しない、というようにすれば余計な混乱を招かずに済む。そういえば、ちょっと意地の悪い子供に(画面を指しながら)「えー、こんなの嘘だよ、この星もあの星も見えてないじゃん」と絡まれたこともあった。

最後に、この用途は基本的に1:1の対応、多くても一度に3人くらいにしか使えない。それ以上の人数であれば、まずはそれぞれの仲間内で1人以上は星が見えている状態を作って、お互いに教えあうように促すべきだ。

ケース2:iPad自体が話題になる

がんばって現実に見えている星空の解説をしているのに、やたらとiPadの方ばかり見て話を聞いてもらえないことがしばしばある。最初のうちは「うーん、本末転倒だなあ」と悩んだものだが、この「物珍しさで人が寄ってくる」というのを逆手に取ってしまうのもアリだ。

天体観望会が始まった直後、あるいは観測する天体を変えようというとき、望遠鏡の用意が出来ていないのに人が群がることがある。 そんな場合に一番大事なのは、望遠鏡の前に一列に並んでいただき、混乱を収束あるいは未然に予防すること。しかし応急処置として、とりあえず望遠鏡から人を剥がしたいときには、近くで iPad をかざすだけで(客層にもよるが)かなりの効果が上げられる。

ところで、星図ソフトを初めて見た方々の中から、観望会のたびに必ず出てくる質問がある。
「これは、空に見えている星をカメラでとらえて画面に映しているんですか」
そんなときは、「いえいえ、センサーは向けた方向だけを記録していて、星空はCGで再現してるんですよ。こうして雲が出てる方に向けても、さらには地面に向けても、ほら」と(ほとんどテンプレ的に)答えている。
「あ、足下に南十字星が!」「そうなんですよ、ここでは絶対に地面の上に上がることはありませんけどね」といった具合に、話を色々展開させるきっかけにもなるので喜んで答えよう。

親から離れて望遠鏡の間を走り回る子供に悩まされた経験は、ほとんどの星空案内人がお持ちであろう。対処方法にはさまざまなセオリーがあるが、私の場合は iPad を1つの手段にしている。爆走する子供を呼び止めて(あるいは物理的に止めて)、「そんなことよりこれを見てごらん」と iPad を見せる。見せるのは適当な星図であることが多いが、何か動きがあるものや画面へのタッチに反応するコンテンツだとより効果的だと思う。子供が止まったら、親御さんも呼んで(これ重要)、親子で飽きずに会話できるような話題を提供すべし。
ただし、万が一にも iPad を壊されることがないよう、よくよく気を遣うように…

ケース3:明日以降の星空を見せる

せっかく観望会へ足を運んで下さった方に、その場限りの話題を提供して終わるのはもったいない。できればこれをきっかけに、日々夜空を見上げるようになっていただければ…
私はいつもそんな想いで星空解説をしているので、機会があれば必ず今後の星空の見どころを紹介するようにしている。

日食や月食といった派手な現象の再現は、それ自体がエンターテインメントになるだろう。

直近の天文現象、あるいは今見えている星空の変化など、話題は相手や話の流れに合わせればいいと思うが、「あとで見ていただく」ことに主眼があるので、見せ方を分かりやすいように工夫するとともに内容は絞った方がいい。また、せいぜい5,6人くらいまでの対応しかできないので、1つのグループに時間を掛けすぎて他の来場者を待たせることが無いように注意!

ケース4:曇っても、屋内でも…

まあ、これが観望会における iPad の究極的な使い方だね…
私の場合、天文台のドーム内で大望遠鏡をのぞく順番待ちをしている方々の相手をすることがあるが、そこでの解説もこれに準ずるかもしれない。
いずれにせよ、基本的な使い方はケース3と同じになる。ただ、「その場にいる方々が退屈を感じないようにする」のが最大の目的なので、常に全体に意識を向けねばならない。

そして、曇りや屋内では星図以外の情報や天体画像を表示するアプリも活躍することになるだろう。


情報系アプリの使いどころ

星空の解説には、言葉で話すのが非常に難しい内容が多い。そこをどうにかするのが解説者の腕前とも言えるが、どんなに言葉を尽くしても伝えられないことをiPadが一瞬で表示してくれるのに、あえて使わない手はないだろう。暗い環境でも写真や図をくっきりと見せられるのはタブレットの強みだ。

なお、自分が分からないことを iPad で調べて間に合わせながら解説するという使い方は絶対にしないし、みなさんにもオススメしない。そんなことをしたら、私は iPad の音声出力装置に成り下がってしまう(下手するとSiriにその役割さえも奪われかねない!)。iPad は所詮、道具に過ぎないのだ。

さて、「情報系アプリ」と一括りにしたが、情報にも色々な種類がある。要は、星図アプリ以外の天文アプリすべてということになるが…
使いどころもアプリによりけりなので、ケースごとに紹介していこう。

ケース5:望遠鏡をのぞいた方への補助説明

特徴的な星の並びを望遠鏡の視野に入れている場合、のぞきこむ直前や直後に「こんな風に見えます/見えましたか?」と言いながら、拡大した星図の画面を見せるのが効果的だ。来場者には自分が見たイメージに確信を持ってもらえるし、うまく見えていない方がいればすぐに分かる。

望遠鏡の視野レベルともなると、上で挙げた星図アプリでは描画しきれない天体も多い。そこで私が使っているのが Starmap HD だ。

Starmap HD App
カテゴリ: 辞書/辞典/その他
価格: ¥1,650

極めて高価なアプリで、値段相応の多機能な星図ソフトであり、出来ないことはほとんど無いと言っていい。しかし観測者のために実用本位で作られているため、星図に美しさや華やかさは皆無。そして、星座名と惑星名以外のほとんどの天体名が英語であるのが痛い。そんなわけで広視野を映す星図アプリとしての出番はないものの、望遠鏡で惑星や星雲・星団を拡大したときの解説ではStarmapの独擅場となる。

望遠鏡で見ていただく機会が一番多いのは月だと思う。月であれば、そんなにややこしい解説をする必要もないので iPad は基本的に引っ込めているが、たまーに「これ何てクレーター?」と質問されて困ることがあるので、念のために以下のアプリを用意している。

Moon Globe App
カテゴリ: 教育
価格: 無料

無料版と有料版があるが、有料版は多少解像度が高いだけで、どちらも広告が無いので無料版で間に合うはずだ。クレーターの名前は全て英字表記だが、何となく読めればそれでよいと思う。ただ、海の名前はラテン語なので、こればっかりは和名を覚えておくしかない。

ケース6:じっくり話し込むときに

星空案内の場で、特に大勢の来客がいるときに長々と解説を続けるのは原則として避けたい。だが他に人がいない(またはスタッフの数にじゅうぶんな余裕がある)状況で、少人数の熱心な来場者とじっくり話し込む機会というのが、私の場合はよくある。
星空案内というより宇宙・天文学の話を求められたときは、以下のようなアプリが場を盛り上げるのに役立っている。

太陽系 App
カテゴリ: ブック
価格: ¥1,200

究極の太陽系図鑑。Apple の iPad 公式ページでも紹介されるほど高い評価を受けた。説明文は詳しく、文字の大きさも変更できるので読みやすいが、さすがに解説時には使わない。活用するのは、操作に反応する様々な仕掛けが用意された図の部分だ。話題提供や、子供の注意を引きつけるのに効果的。

SpaceMap App
カテゴリ: 教育
価格: ¥500

宇宙旅行シミュレーション系アプリ。iPad で動作する Mitaka の仲間、と言ってもよい。太陽系、恒星間空間、さらには宇宙の大規模構造と、「宇宙の姿」を語るときは重宝する。


ちなみに、WiFiが使える環境にいるか、 iPad の 3G ないし 4G 版を使っているなら、ネットでちょいちょいと画像を検索して見せるのも一つの手。宇宙開発や探査機・宇宙望遠鏡の話題なら、NASAの公式アプリがあると画像が見つけやすい。

NASA App HD App
カテゴリ: 教育
価格: 無料


ユニバースをユニバーサルに

日本語で話しかけるという普段のやり方では、案内を伝えられない相手もいらっしゃる。そんなとき、iPad がコミュニケーション・ツールの役割を果たしてくれることに最近気づいた。
宇宙(Universe)を万人(Universal)に。これは世界各地における天文普及活動の1つのトレンドだ。そのために iPad で出来ることはまだまだある気がする。是非みなさんにも探していただきたい。

ケース7:聴覚障がい者への応対

あるとき、一般公開中の天文台へ全く耳の聞こえない方が訪れた。手話で解説できるスタッフはいない。さあどうしようかと皆が困ったとき、ふと、iPad なら筆談できるのではないかと気がついた。

この判断は大正解。iPad の大きな画面に手早く指で文字を書きつつ、ジェスチャを交えれば、他の解説員が話している内容の半分以上は通訳できる。もちろん、これまでに挙げた星図アプリなどもフルに活用した。

iPad を使った筆談で説明していると、非聴覚障碍者であるまわりの来場者にも解説の内容が伝わるのも大きなメリット。手話で案内すると専属にならざるを得ないだろう。また、暗闇の中で筆談するなどとは、紙では絶対にできない芸当だ。

iPadで筆談するためのアプリは無数にある。手書きメモアプリと呼ばれるようなもの、お絵かきアプリに分類されるものなど様々であり、使い勝手には個人差があると思うので各自で探されたい。

ケース8:非日本語話者への応対

「え、英語で話せばいいんじゃないの」という単純な問題ではない。「オラーイアンには赤いビートゥルジューズと白いライジュルという2つの1等星があり…」という説明がすらすら出てくるだろうか。これを「オリオン、ベテルギウス、リゲル」と日本式に発音したら、多分通じない。

こういう場合には、英語表記の星図を見せれば、まず間違いはない。そのためにあえて日本語対応していない星図アプリを残しているほどだ。

Pocket Universe: Virtual Sky Astronomy for iPad App
カテゴリ: 教育
価格: ¥250

そこそこ安い星図アプリ。必要最低限の機能はそろっているのでコストパフォーマンスは高いが、日本語対応してないのがネックだな…と思ったら、それがかえって役に立つ場面を見つけるに至ったのであった。

え、英語も日本語も話せない方が来られたらどうするかって? ネットに接続できるなら、Google 翻訳や Wikipedia といった便利なツールがある。それも駄目なら…まあ、ある意味で本当の腕の見せ所かもしれない。

まとめ

まずはここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

以上、私によるiPadの使い方を、大まかに3つに分けて8通りのシチュエーションを紹介したが、分類は体系的ではないので重複した話題もあるし、言及できなかった使い方もあるかもしれない。

これから iPad を星空案内の場で活用してみようという方には、是非この記事にとらわれずに自分の流儀を開拓していただきたい。ただし、iPad のようなツールを一切使わずに己の身一つで解説する経験をじゅうぶんに積んでおくべきだ。

繰り返しになるが、iPad があなたのために解説してくれるのではない。あなたが iPad を駆使して星空を案内するのだ。

2012年3月5日月曜日

インド天文学.zip

たまには研究の話をしよう。

私が大学院生としてやっている勉強と研究は、主にサンスクリット※1で書かれたインドの天文学書を読むことである。

インドの基本的天文学書は、いや、ほとんどの学問分野における基礎テキストに共通することは、とにかく短い言葉の中に内容を詰め込んで暗記しやすいように作られている。学者たるもの、教科書の内容は全て頭の中に入ってなければ失格なのだ。

そんなわけで、昔のインドで創られた(書かれたと言わない方が良さそうだ)教科書は、たいてい詩の体裁をとっている。厳格な韻律を守って編纂されているのだ。まあ、皆さまがお使いの教科書がすべて俳句や短歌だけで構成されているみたいなものだと思ってほしい。

さて、私が主に勉強しているのは『アールヤバティーヤ(Āryabhaṭīya)』という天文学書だ。西暦499年にアールヤバタ※2が世に出した百数節の韻文であり、例によって情報の徹底的な圧縮が施されている。というか、その圧縮具合が尋常でないので、1節だけご紹介したいと思う。

nṛṣi yojanaṃ ñilā bhūvyāso 'rkendvor ghriñā giṇa ka meroḥ
bhṛgu-guru-budha-śani-bhaumāḥ śaśi-ṅa-ña-ṇa-na-ṃśakāḥ samārkasamāḥ

ああっ、そのままページを閉じようとしないで!
注目していただきたいのは赤字の部分。これは全部数字なのだ。
アールヤバタは、サンスクリットにおける基本子音25個に1〜25の数字、8個の半母音や特殊な子音に30, 40, ...100を割り振り、それぞれにつく母音や位置に応じて1の位から10京(10の17乗)の位まで18桁の位取りができるようなシステムを作った。

ṣi(そり舌の状態で「シ」)というのは、ṣという80を表す子音+百の位に相当する母音のiの組み合わせなので、80×100=8000。これを正式なサンスクリットの数詞で表現しようとしたらaṣṭau sahasrāṇi(アシュタウサハスラーニ)。驚きの減量効果だ。

あとはたとえば、ghriñā(グリニャー)は(gh+r)×i+ñ×ā=(4+40)×100+10×1=4410。数詞ではcatuścatvāriṃśacchatāni daśottarāṇi(チャトゥシュチャトヴァーリムシャッチャターニダショーッタラーニ)だから、こちらも大幅な短縮に成功している。

もちろん、音と数字の対応関係も『アールヤバティーヤ』の冒頭で定義されてるんだけど、それ自体が極めて短い。最初に挙げたのと同じ長さの詩節1個だけだよ、信じられないよね。

まあ、ふつうのサンスクリットではあり得ない音の組み合わせが必要になる数字もあるので、とても発音しづらいのが難点ですがね。舌を咬む学生が続出したのか、アールヤバタ方式は長続きしなかった。もちろん、それに代わる方式が様々に考案されたのだけど、それはまた別の話。

文章を短くしようとするインド人学者たちの執念がお分かり頂けただろうか。余談だが、紀元前4世紀ごろに活躍した文法学者のパーニニ、 彼はサンスクリットの膨大な文法を2時間程度で詠唱できるテキストにまとめた人物なのだけど、「1音節の短縮は息子が一人生まれるのと同じくらい嬉しい」というコメントを残したと言われている。

おおっと、肝心なのは詩節の意味だった。和訳を並べてみよう。サンスクリットの詩節にはあまりに省略が多いので、そこは括弧で補った。

nṛṣi yojanaṃ ñilā bhūvyāso 'rkendvor ghriñā giṇa ka meroḥ
bhṛgu-guru-budha-śani-bhaumāḥ śaśi-ṅa-ña-ṇa-na-māṃśakāḥ samārkasamāḥ

1ヌリ※3の8000倍が1ヨージャナ※4である。地球の直径は1050[ヨージャナ]、太陽と月[の直径]は[それぞれ]4410[ヨージャナと]315[ヨージャナ]。メール山※5[の直径と高さ]は1[ヨージャナ]。
金星・木星・水星・土星・火星[の直径]は[それぞれ]月の5分の1、10分の1、15分の1、20分の1、25分の1である。[ところでこれ以降、]「年」といったら「太陽年(黄道上を太陽が1周する周期)」のことである。

書き言葉としての日本語は文字量を抑えられる便利な言語で、さらに私は数字という短縮表記手段(ちなみにこれもインド起源だ)を使っているのだけど、それでもこの長さだ。恐ろしい。

ところでこの詩節、テーマは地球と諸天体の大きさであるはずなのに、最後に「一年の長さの定義」という全然関係ない話が挿入されている。スペースが余ったから詰め込んだのだろう。
私はこれを見て、引っ越しのために荷造りしているときを思い出した。「本」とマジックで書いたダンボールへ文庫本をびっしり詰め込んだところスペースが余ったので、私はCDを何枚か入れたのであった。
おおかたそんな感覚であろうか。

ここまで読んで頂ければ察しが付くと思うのだけど、『アールヤバティーヤ』は単独ではとても読めたもんじゃない。アールヤバタ自身も弟子達に口頭で解説しながらこの教科書を伝授しただろうし、後世には数十冊の注釈書が書かれている。
私の修士論文は、そのうち1つを現代語訳することだった。注釈書だからさすがに散文(ふつうの文章)で書いてくれているのだけど、それでもインド人の感覚についていくのはなかなか大変だ。

また気が向いたら色々ご紹介したいと思う。


※1: 古代〜中世のインド文化圏における学問と宗教の場で使われた言語。ラテン語が中世〜近代のヨーロッパで果たしたのと同じ役割を果たしたと言っていいと思う。サンスクリットは「仕上げられた物」を意味するsaṃskṛtaに由来する単語であって地域・民族の名ではないので、「サンスクリット語」というと違和感がある。

※2: Āryabhaṭa。『アールヤバティーヤ』の記述から、彼が476年生まれで499年に同書を完成させたことが分かっている。0〜90°まで3.75°刻みの角度に対応する正弦(sin)の一覧や方程式論を説き、それを天文学に応用する方法も示した。彼の流儀が多くのインド天文学者に影響を与え、それはのちのイスラム文化圏、そして近代ヨーロッパの数理天文学にも引き継がれる。ちなみにWikipediaに彼の項目があるけど、少なくとも15箇所の間違いがあるので読んではいけない(っていうか名前も違ってるし)。

※3: 両手を伸ばして立った男性の高さ。昔の人間の背丈が低いことを考慮すれば、だいたい170〜180cmくらいか。

※4: 十数kmの長さ。日本にも「由旬(ゆじゅん)」と音訳されて伝わっている。

※5: インドの世界観で、宇宙の中心に位置すると考えられた非常に高い山。ヒマラヤ山脈からの想起と思われる。日本には「須弥山」の名で伝わっている。伝統的世界観では人智を超えた高さなのだけど、地球が球体であることを知っているアールヤバタは、それを常識的な高さに収めた。

2012年3月4日日曜日

うっかり、ひっこし(2)

うっかり続きを書くのを忘れるところだった。あぶないあぶない。

今回の引っ越しで上賀茂神社に程近いエリアから下鴨神社に程近いエリアへ引っ越したのだけど、こちらの方が家賃の相場が高い。そのため部屋のデグレードは避けられなかった。
そうでなくても旧居は
  • バス・トイレ別、風呂には浴室乾燥機、トイレにはウォシュレット
  • 独立洗面台
  • 床下暖房
  • ウォークインクローゼット
  • エントランスにオートロックの自動ドア
  • インターネット接続無料
  • 新築(完成した日に入居した)
などと至れり尽くせりで、 管理費込み5.5万円という破格の物件。

でも、探せばあるものだ。浴室乾燥機・ウォシュレット・独立洗面台・床下暖房を諦め、自分にとっては危険でしかないオートロックを条件として無視したら、同じ家賃で部屋を見つけた。
そもそも、浴室乾燥機と床下暖房は依存しすぎて電気代・ガス代が大変なことになってたしね。

そんな新居に、引越屋とのうっかり比べを経てやってきたのである。
片っ端からダンボールを開けて、部屋の乱雑さがピークに達した頃に、大家さんがお越しになった。
大概、賃貸物件の管理は専門の会社に委託されているものだけど、このアパートは大家さんが万事に至るまで直接管理されている。こちらの方が安心感が違う。

そして大家さんは非常に丁寧にこの部屋について説明してくださった。
「では契約書から確認しましょう。 ここの住所は●● xx-9、アパート名○○のy号室で…」
浅はかな私は、やたらと丁寧だな、と思った。

本当に浅はかだった。
ちゃんと聞いていれば、自分が住所を xx-2 と覚えていたことに気づけたのに。
#そう、引越屋が迷ったのは私が伝えた住所が違っていたからだ!

設備の説明も丁寧だった。
「エアコンはそこです。コンセントを入れてそこのリモコンを使えばつくでしょう。使い方は大丈夫ですか?」
浅はかな私は、多分試さなくても大丈夫です、と答えた。

本当に浅はかだった。
ちゃんと見ていれば、リモコンの液晶表示が消えていることに気づけたのに。


説明を受けた後、いったん旧居へ退居確認のために戻った。結果は、クリーニング代以外の補修無し。無事、理論上最大値の敷金が戻ってくることに。荷造りを犠牲にしてまで清掃を頑張った甲斐があった(どうせクリーニングされるんだから意味の無い努力が多かった気がするのには目をつぶる)。

ゴミをすべてまとめ、残っていた私物を全てしまう。
何一つ部屋に置いてないことを確認。
私は採寸のために残る管理屋へ一言あいさつし、スリッパを脱いですばやく靴に履き替え、そのまますっきりした気持ちで新居に戻った。

最後の瞬間に発生した忘れ物に気づいたのは、新居で靴を脱いだときである。床の冷たさを直に感じながら、己のうかつさを嘆きつつ、せめて部屋自体は暖めようとエアコンのリモコンに手を伸ばす。

電池が切れていた。

旧居→不動産屋→研究室→旧居→新居→旧居→新居と一日中走りまくったせいもあって、私自身の体力も切れそうになっていた。

もはや物理的な作業をする気が失せてきたので、私はとりあえず暖かい格好で縮み込むようにしながらPCに向かうことに。せめて各方面の住所変更手続きだけは済ませておきたかったからだ。

もちろん、契約書になんぞ目もくれずに覚えている住所を入力し続けた。

その作業すらも大いなる無駄となったことが分かったのは、翌日私が役所での住所変更手続きまで終えたあとである。

翌日に気づけたのがせめてもの救い、だろうか。
何にせよ、私は1日だけ架空の住所に住んでいたことになり、手続き上2回目の引っ越しをする羽目になった…

2012年3月1日木曜日

うっかり、ひっこし(1)

昨日(2月29日)、私は引っ越した。

その様子を今書こうというわけだけど、わざわざ24時間経ってから書いているのは、引越直後はあまりにも疲れていて、書こうという思考が働く前に寝てしまったからだ。床の上で。

引越当日の朝も、目覚めたときは床の上だった。たぶん、前日に風呂や台所の掃除を頑張りすぎて疲れていたのだと思う。「敷金を(どう足掻いても免れ得ないクリーニング代は除いて)全額取り返すぞ」と躍起になった結果、ガスレンジの換気扇を水酸化ナトリウム(廃油で石けんを作った余り)で洗うほど徹底したクリーニングをおこなってしまった。

 一通り清掃を終えて、色々な手続きのために外出してから夜に帰宅した直後、ふと休むつもりが、居眠りしてしまったのだと思う。そして起きてから気がついた。

クリーニングを頑張りすぎて荷造りがまだ終わってない。

残っているのは割れないよう梱包しないといけない皿などである。必死になって作業を進める。

午前10時、大量の未梱包品をあとにして、新居の鍵を受け取るためにいったん不動産屋へ。 そのとき引越屋から電話が来た。
早ければ午前11時に到着する予定だったところが、正午から午後0時半になる見込みだという。

1時間の差は大きいーこれは行ける!

そう思って、一旦研究室に寄って別の用事を済ませたのが間違いであった。

午前11時頃、余裕を持って皿を詰め込む私の元へ引越屋から2回目の電話があった。

「作業が早く終わったので15分後にお伺いします!」

死の宣告である。

心の中で悲鳴をあげながら電話を切り、その場で割れてしまうんじゃないかという勢いで皿を箱に放り入れる私。が、間に合わない。皿は詰め込めても、まだ大量の小物類が残っていた。
本棚・食器棚・机の引き出し等はすべて空にした代わりに、梱包してない物がそこらじゅうに散らばっているので、実質以上に「荷造りが進んでない」ように見える。そして無情にも作業員はやってきた。

部屋を見て一言、
「うわー…梱包できてない物は運べませんからね」
さすが大手引越社…じゃなかった引越屋、信頼はできるが対応が物凄く官僚的だ。

見積もり担当者が見落としていた品があったときは、チェック表を見せて「リストにないので運び出せませんよ」と半ば脅されてしまった。これについては最初にインターネットから申し込んだ際に申告しているし、営業担当者が見積もりに来たときは一つ一つを私に確認することなく
「ざっと見ましたが大丈夫でしょう、一応このようにチェックは付けておきますがそれに関わりなく『全て運びます!』」
と契約書に書きながら私に言ってくれたのだ。

普通なら作業員が2人来るところを、(おそらく)新人がいるとはいえ3人も来たので、搬出作業は極めて早かった。私も梱包を必死で進めて、かろうじて全家具撤去と同時に最後の箱を梱包。「荷造りする時間はなかったんですかw」とからかわれる。
要領が悪くてすみませんね…

搬出完了は午後1時前。タイミング的に昼食を挟むかと思いきや、「このまま搬入へ向かいます」と言われる。おおう。

「自転車ですかw いけますかw 大丈夫ですかw」

ものっすごく馬鹿にされてる気がしたので、ええお待たせしないように急ぎますね、と言うと部屋を施錠し、速攻でヘルメットを被って自転車に乗った。

新居へは既に自転車で行ったことがある。時間も把握している。トラックがよほど要領よく出発しなければ余裕で勝てる。へっ、見てろ、と思いながらムキになってペダルをこぐこと約2,3分。
作業員から電話が来た。

「あの…すみません…部屋にトラックの鍵を忘れちゃったみたいで…」

Σ(゚д゚|||)  ……  m9(^Д^)

相殺された。
私のスタートダッシュ(約1km)が打ち消されたが、 作業員に対する負い目も完全に消滅。というか、これ以降作業員の態度は一変して丁寧になったのであった。

結局この後でも、私は圧倒的に早く新居に到着したのだが、引越トラックは道が分からなくなってしまい結局私が途中まで迎えにいかなければならなくなった。
ただ、このとき引越屋が道に迷ったのには訳がある。私がそれに気づくのは翌日のことであり、大変な悲劇につながるのだが、それについては別の機会に…

搬入は何の問題も無く終了。私が終了確認のサインを終えて作業員がトラックへ戻ったと思ったら、直後に慌てて帰ってきた。
「すいません、領収書をお渡しするのを忘れてました」

依頼主も、作業員も、うっかりやさんでした、ということで。

あれ、例の小旅行記が全然更新されてないけどどうしたんだよという方へ、14文字で説明します。

ツイッターでフォローされた。

2012年2月26日日曜日

京都密教枕の旅(1)

うちの研究室に3ヶ月間だけ、中国から留学生がやってきた。
初めての来日だそうだ。

折角なので観光案内を買って出る。こういうときでもないと、自分自身が観光する機会がないのだ。

京都到着から1週間後、そろそろ誘おうかと思っていたところへ一通のメール。

「ここのところ毎晩悪夢にうなされてます…」
(※会話は基本的に英語なので、大ざっぱに意訳、以下同)

日本に来てから早くも何が起きた、とか
まるでスパムメールの出だしだよな、とか
事情を知らない人がここだけ見たら「フラグ立った」と言うよな、とか
他人事のように内心ツッコミを入れたが、ちょうどいいので「気晴らしにどっか行きましょう」と返信。

「じゃあ安眠のお守りをくれるお寺で!」

いきなりリクエストのハードルが高すぎるがな。
まあ、我が国の八百万の神様なら一柱くらい安眠担当がおられるだろう…

「神社じゃなくて仏教寺院がいい!密教系で!」

さらにハードルが上がった。
まあ、彼女はチベット仏教を専攻しているので、少しでも自分の専門分野に近い所を見ていきたいのだろう。
しっかしそんな都合の良いところがあるのかよ。






…あった。

今熊野観音寺

平安の昔、弘法大師空海上人が唐の国から帰国されてほどなくの頃、東寺において真言密教の秘法を修法されていたとき、東山の山中に光明がさし瑞雲棚引いているのを見られました。
不思議に思われてその方へ慕い行かれると、その山中に白髪の一老翁が姿を現わされ、「この山に一寸八分の観世音がましますが、これは天照大神の御作で、衆生済度のためにこの地に来現されたのである。ここに一宇を構えて観世音をまつり、末世の衆生を利益し救済されよ。」と語りかけられ、またそのときに一寸八分の十一面観世音菩薩像と、一夥の宝印を大師に与えられました。この時に老翁が立ち去ろうとされたので何びとかをたずねると、「自分は熊野の権現で、永くこの地の守護神になるであろう。」と告げられて姿を消されました。
大師は熊野権現のお告げのままに一堂を建立され、みずから一尺八寸の十一面観世音菩薩像を刻まれ、授かった一寸八分の像を体内仏として納め、奉安されたのが当山のはじまりです。
平安時代末期のすぐれた為政者でもある後白河法皇は、熊野権現を信仰され、今熊野の地にも熊野権現を勧請され、当山のご本尊をその本地仏として定められ、深く信奉されました。
しかし源平争乱などの不安定な世情にあって、ご心痛の多かったことでありましょう。法皇は持病として、激しい頭痛がおありでした。そこで、頭痛封じの観音さまとして評判の高かった今熊野観音に頭痛平癒のご祈願を続けられたところ、ある日の夜に就寝中の法皇の枕元に観音様が現れ、病める頭に向けて光明をお差しかけ下さいました。すると永年苦しんでこられた頭痛が、不思議にもたちまちに癒えてしまいました。
爾来、法皇は今熊野観音を頭痛封じの観音としてさらに天下にお知らしめになり、益々篤く信仰されるようになりました。
その他たくさんの霊験記が伝わっていますが、頭の観音様とされ、また枕元に立たれたり夢にお姿を現されるとされています。

探してみるもんだ。

そんなわけで、安眠に効果があるという霊験あらたかな枕カバーをここで手に入れるためのツアーを決行。

東福寺→今熊野観音寺→泉涌寺→三十三間堂→いければ清水寺

というコース。


そして彼女と打合せ。
「集合は午前10時にしよう」と言われる。私は早起きが苦手なので一安心。
場所について彼女は何も知らないので、東福寺方面へ出る駅を指定した。しかし、留学生寮から駅までどうやってバスに乗ればよいのかいまいち自信が無い様子。
適当に教えてあらぬ方向に行かれても困るので、少し丁寧に解説。「この地図通りのバス停に乗ってね、9時10分のバスに乗ると10時に間に合うけど、9時40分に乗ると遅くなるよ」と。

返事が来た。

件名:I know the bus
本文:Hi, You're so gentle and careful, which means you're a nice babysitter.

意訳すると、
「そのバスくらい知っとるわ。ったく、お前この野郎しつこいな、ガキ扱いしやがって」
ってところだと思います。
はいはい、すみません。

そして当日(つまり本日・2/26)、私が10時に何とか間に合うバスに乗ってほっとしていたところで、彼女から「今バスに乗ったよ」というメール。

時は午前9時42分。ああ、バス正常に運行しているようだね。

春の訪れをちらつかせて人々の服を一段薄くさせたあと、すかさず冬に逆戻りして冷たい風を吹き付けるサディスティックな天気の中、天然サディスティックな留学生を震えながら待つ私であった。

2012年2月24日金曜日

音楽の引っ越し

ついに手持ちのCDをすべてiTunesに取り込んだ。こうなれば、もはやCDドライブなんて要らない。

というわけで、以前からやろう、やろう、と思っていて実行に移せなかった、CDドライブが有るWindowsマシンから無いMacbook Air(の外付けHDD)へiTunesのデータ一式を移す作業を始めた。
まだ引っ越しの作業がこれっぽっちも進んでないというのに…

移行に当たっては
 あたりの情報が役に立った。

ただ、私の持っている外付けHDDはMacにしか対応出来ないフォーマットなので、このHDDのiTunesフォルダを共有状態にして(MacからWindowsでも読み取れる共有状態を設定するのがこれまた面倒なのだ)、WiFiを介して直接データを送り込む方法をとった。
所要時間は3時間ほど。暇なのでだいぶ本を読み進めることができた(引っ越しの準備しろよ)。

すべての移行作業が終わったと思ってiTunesを開いたら、読み込めない音楽データが100件ほどあった。移行前にライブラリを整理する作業を怠ったツケである。また余計な時間を消費した。

移行が完了してiTunesを使ってみると、これが元来Mac用のソフトであったことがよーくわかる。軽さが違う。インターフェースがよくなじむ。


こちらが私のMacbook Airにおける視聴の様子。iTunesは直接使わず、左下に Bowtie(スキンは Unnamed)で曲情報を表示し、操作するときは Alfred のiTunesプレーヤー機能を使っている。
Alfred はSpotlightを発展させたような機能を持つランチャーソフトで、基本機能は無料で使えるが有料パックを購入するとクリップボードやアドレス帳の管理、さらには第三者が作った多種多様な拡張機能を取り込める。有料パックの目玉機能の1つがこのiTunesプレーヤー。数ヶ月前に有料パックを買ったときから試してみようと思っていたのだけど、期待以上に使えるプレーヤーだった。嬉しい。

さて、これで作業用BGMの環境は整ったので、いい加減、引っ越しの準備を進めますかね…

2012年2月22日水曜日

果てしなき作業

引越の準備を始めると、なぜか、今まで考えもしなかったこと・完全に放置していたことをやりたくなってしまうものだ。

院試が終わってからは、自宅にあった取説の類と研究室の論文などを延々とスキャンする作業が始まり、異常なまでの時間を費やしてしまった。

もちろん引越自体の準備は進んでいない。


そして今はまっているのがこれ。


私は百枚くらいCDを持っていて、過半数はクラシックなのだけど、ほとんどを全く聞かないまま棚の中で埃をかぶらせていた。その存在を意識するのは引越のときくらいであり、それでいて積み込み作業で一番面倒な奴らである。

ジャケットデザインが気に入らないものを中心にいくらか減らそうと思い、中の音だけは欲しいので、片っ端からiTunesに取り込み始めた。ついでに調子に乗って、それ以外の(今まで聞いてなかったけど手放したくない)CDも取り込み始めたので大変なことになってしまった。

クラシック音楽のCDというのは、同じ音源を元に何枚ものCDが出るし、すぐに廃盤になる。だからネットを検索しただけではジャケットが手に入らないことが多い。研究室に行けばスキャナーはあるけど、それだけのために研究室へ持って行くのも馬鹿馬鹿しいのでデジカメで撮影→フォトショップで調整→取り込みという手間を掛けて一枚一枚登録することにした(結局研究室に持って行った方が早かったんじゃ?とは言わないでくれ)。

登録した奴、ちょっと出てこい
曲のタグ付けも面倒だ。まず、クラシックの場合は「アーティスト」の欄に作曲者(e.g. チャイコフスキー)を入れるべきか指揮者や演奏者(e.g. 小澤征爾・ボストン交響楽団)を入れるべきかで迷う。私は後者を選んで、作曲者名はタイトルに入れるようにした(作曲者には専用のタグもあるし)。しかしネット上のデータベースから自動的に取り込まれる音楽情報には何のルールもないので大変だ。

結局、全てのCDについて、事実上ジャケットから音楽情報まで全て手入力しているような気がする。

 もちろん引越自体の準備は進んでいない。

2012年2月18日土曜日

何とかなった。

一次試験終了直後は非常に惨めな状態だったが、実際のところ、半分は「とりあえず大量に問題を与えるから書けるだけ書いてみろ」と試されているところがあり、半分は「どれほどのものか試してやろう」という趣旨の試験だったようだ。

一次試験は首尾良く通り、二次試験の面接も無事に終えて合格をいただくことができた。

私が志望した専修では私しか受験生がいなかったが、研究科全体では42人の受験生がいて、合格者は14人だけ。3分の1に入れたことを大事に考えて、3倍精進するつもりでいねばなるまい。

そんなわけで、4月からは吉田のあたりで過ごすことになった。
それまでは、引越の準備、それからもっと積極的に遊ぶ時間を設けたいと思う。

2012年2月13日月曜日

計画的なようでまったく計画性もなく

2月も半ば、夕方が近づき、外は雨。
院試の一次試験が非常に悲惨な結果に終わって、
明日の発表を前にして諦めムードすら漂う、そんな陰鬱な気分。

で、本当は進学先が決まったらブログを再開しよう、と思ってたんだけどそれも怪しくなり…
とりあえず気分を落ち着かせる一環として何か書いてみようと思った次第。

いいのかこんな突発的で適当にブログを始めて。

まあいいのさ、元々ブログを再開するなら、「あまり考えて時間をかけて文章を書くことはしない」ことを方針に決めていたから。

これで見事に試験が玉砕してたらブログ再開はなかったことにして他のことを考える可能性が高いけど、もし14日に一次選考が合格していたら正式に立ち上げよう。

そのときにこの文章はあえて残しておくので、絶望にうちひしがれていた私の暗い表情を想像して笑ってやってくれ!